「平成狸合戦ぽんぽこ」は1994年、スタジオジブリ制作のアニメーション映画です。
出典:Studio Ghibli
高畑勲監督作品。人間の環境破壊により山、住処を奪われていき、それに抵抗する狸たちの奮闘を描いたアニメーション映画です。
世界最大のアニメーション映画祭のアヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門グランプリを受賞。
作品の終盤に宝船に乗って旅立つシーンがあります。今回は死出の旅を考察しようと思います。
目次
「平成狸合戦ぽんぽこ」あらすじ
舞台は昭和40年代、東京都の多摩市。山里で静かに暮らしていた狸たちが「多摩ニュータウン」の開発に抵抗するお話です。
出典:Studio Ghibli
狸たちは4年の歳月をかけ、「化け学」(ばけがく)を習得して人間を化かして抵抗していきます。
1年目、化け学を学び抵抗するが効果なし。
2年目、騒ぎにはなるが工事を中止させることができない。
3年目、権太と正吉が対決しているところに四国より3匹の長老がやってくる。長老達の指導のもと、「妖怪大作戦」と言う名の百鬼夜行を行い工事の邪魔をするがただの余興となり、それが、人間に手柄を奪われてします。
出典:Studio Ghibli
全ての計画が失敗に終わると、狸たちの結束が乱れ始めます。多摩の化け狐竜太郎が金長に「人間と共に暮らしていく道を選んでは?」と提案します。狐たちも人間に化けて平穏に暮らしているのです。しかし狸は自分の縄張りを守ることに必死ですがうまくいきません。
その頃、失望感から禿げ狸が踊り念仏を始め、教祖となります。そして宝船に変化し、死出の旅にでます。
一方、権太たち強硬派は、工事現場で座り込み抵抗するも落命してしまいます。
4年目、佐渡に派遣されていた文太が戻ってきます。しかし変わり果てた多摩の風景に愕然とし、残された狸たちは最後の力をふりしぼってかつての美しい緑多き多摩丘陵を化け学の力で見せつけます。しかし無念にも多摩ニュータウン計画は進み、狸は人間に化け暮らしていくことになります。
出典:Studio Ghibli
禿げ狸は信仰宗教の教祖なのか
禿げ狸は開発に抵抗、阻止するために四国、讃岐から多摩にやってきた推定年齢999歳の長老狸です。力があり、大きな大金玉を持っています。
出典:Studio Ghibli
開発に抵抗しようとあらゆる手を尽くしましたがうまくいかず、絶望感からなのか踊り念仏を始めます。神頼み。これに賛同したのは人間にも化けられない並の狸たち。そこから踊り念仏の教祖となります。
あの禿げ狸でもなし得ることができなく、人間には勝てないと悟り、もはや生きていくことができないと無力感を感じたのでしょう。
死出の旅は集団自決なのか
極楽浄土をまぶたに描き遠足気分でいそいそと、乗り込む姿ぞ哀れなる宝船、打つやうつつの夢の夜を賑やかに並のタヌキを満載し金銀珊瑚に埋もれて遠ざかりゆく宝船よも泥舟ではあるまいに、見送るタヌキの眼に涙朧に霞む薄原ただ春の夜の夢のごと月のうさぎを仰ぎつつ阿弥陀の招く極楽の補陀落目指し、賑わしく宝の船は死出の旅、ソレ ドンジャンドンジャン死出の旅、並のタヌキは死出の旅行きて帰らぬ死出の旅、ソレ ドンジャンドンジャン死出の旅、哀れタヌキは死出の旅ドンジャンドンジャン死出の旅トホホ…人間にはかなわないよ…
平成狸合戦ぽんぽこより
出典:Studio Ghibli
「妖怪大作戦」などことごとく失敗し、人間にはもう勝てないとなると残された道は2つ。
- 人間に化け、人間に紛れて生活する
- 限られた里山で暮らす
金長は狐の竜太郎に会い、狐も人間に化けて暮らしていることを知ります。変化のできない並の狸は「滅びる身」とのこと。人間にも化けられず、限られた里山の環境にも適していけない狸たちは死ぬしかない、それを禿げ狸は悟ったのでした。
並の狸たちの行く末を案じて、禿げ狸の大金玉を伸ばして宝船を作ります。ここに大勢の並の狸たちが乗り込み、集団自決にいきます。
禿げ狸はみんなを連れて海に入ります。念仏を唱えながら狸たちは極楽浄土を目指します。八畳敷の玉袋に書かれているのは「南無阿弥陀仏」という極楽浄土への導きを祈る言葉です。
出典:Studio Ghibli
行き先は補陀落。補陀落とは、観音菩薩が降り立つと言われている山のことで、そこを目指して宝船に乗って死出の旅にでます。宝船に乗った狸たちは楽しそうに大宴会をしています。宝船の起源は「悪夢を流す」という意味があるようです。狸にとっては辛い現実から逃避する極楽浄土へ向かう宝船なんですね。
出典:Studio Ghibli
宝船に乗った狸たちを見送る正吉などの狸たちの目には涙。無念さと人間に対しての憎しみが感じられます。
「平成狸合戦ぽんぽこ」に隠されたメッセージ
自然破壊への警鐘
出典:Studio Ghibli
動物達が住処としているのは緑、山、自然の中にあります。自然破壊をしていくことへの警鐘であり、命の大切さを訴えています。宝船に乗り死出の旅に出た狸たちを思うと、動物の無念さ、悲劇さが感じられます。
人間中心の世界で環境破壊をせず、動物との共存を図るべきとのメッセージも感じ取れます。
反戦メッセージ
「平成狸合戦ぽんぽこ」は人間と狸の戦いです。力の差がはっきりしていて結果はわかっていても玉砕覚悟で挑んでいく、この姿が太平洋戦争の日本とアメリカに似ているようです。
「平成狸合戦ぽんぽこ」では狸の住処の山が奪われ、人間に包囲され戦いをせざる得なくなった、この構図に似ています。
高畑勲監督は「平成狸合戦ぽんぽこ」の前に「火垂るの墓」を制作しています。
「火垂るの墓」は日本とアメリカの太平洋戦争を題材にして描いていて、その戦中に生きる幼い兄妹のお話です。戦争の残酷さが強く印象に残ります。しかし「火垂るの墓」は太平洋戦争の話ですが反戦アニメではないと監督は明言しています。
反戦やただ涙を誘うような映画ではなく、戦争時代に生まれた普通の兄妹の日常を描いた悲劇の物語
日本の名作『火垂るの墓』
— ミーハーな映画好き (@mihaaa_eigasuki) February 8, 2017
誰もが一度みて
反戦映画だと思うだろうが、
高畑勲監督は
それを完全否定!!
テーマは
「子供は生きるのが
困難な時代でもその辛さに耐え、
社会のために働く大人達を
尊敬すべきだ。」
というもので、
その困難な時代に
戦争を選んだだけだという。 pic.twitter.com/X5SZfxbRNd
火垂るの墓|商標問題か政治的理由か?放送禁止の理由を探ってみた
高畑勲監督はどんな人なのか
スタジオジブリの設立にも参加し、数多くの名作を世に送り出してきた高畑勲監督。「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」「おもひでぽろぽろ」など5つの作品の監督を務めました。
スタジオジブリと言えば宮崎駿監督で、当然顔は知ってて、鈴木プロデューサーもよくTVに出てるから知ってる人も多いけど、「ぽんぽこ」や「火垂るの墓」の高畑勲監督の顔を知らない人は多いはず。
— hbkuma@ペパクラP(2010.9.9) (@hbkuma) December 10, 2015
この方が高畑勲監督ですよー! pic.twitter.com/J0QzuPcT4L
あだ名は「パクさん」、遅刻してパンをパクパク食べていたからだとか。
高畑監督の映像表現、技術へのこだわりがアニメーション制作に長い歳月をかけることになります。そして高畑監督はアニメーター出身ではないため、絵を描くことはないそうです。
徹底した取材と洞察力、しかしかなり恐ろしい人とも言われています。
作品のためなら何でもする。その結果、未来を嘱望された人間を次から次へと潰してしまった。宮さん(宮崎駿)はよく「高畑さんのスタッフで生き残ったのは、おれひとりだ」と言います。誇張じゃなく、本当にその通りなんですよ。高畑さんの下で仕事をすれば勉強になるとか、そんな生やさしいことじゃないんです。酷使され、消耗し、自分が壊れるのを覚悟しなきゃいけない。 「パクさんは雷神だよ」。宮さんは最近そう言っていました。高畑さんが怒るときはいつも本気なんです。その人を鍛えるため、仕事への姿勢を変えるために言うんじゃない。 本気で怒っているから、何の配慮もしません。逃げ道も作らないし、あとで救いの手を出すこともない。だから、怖いですよ。
ジブリの教科書19 かぐや姫の物語
高畑勲氏(82)が死去…昨年夏頃に体調崩し入退院を繰り返す。「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」「となりの山田くん」「かぐや姫の物語」など数々のヒット作を送り出した https://t.co/oN9Ep4JK3C pic.twitter.com/wdc9CKPc1P
— ジブリまみれ (@ghiblimamire) April 5, 2018
まとめ
出典:Studio Ghibli
楽しそうに宴会をし宝船に乗り込んでいますが、死に場所を求める死出の旅です。狸たちの無念さが感じられ、とても悲しくなるシーンです。
この死出の旅で集団自決を図るという構図が太平洋戦争の戦いに負けた日本に似ているようです。弱者の虚しさ、絶望感も感じられます。
しかし「人間に化けられない、限られた里山に適応できない狸の哀れな死」ではなく、「狸としての誇りやプライドを守る死」だったと推測されています。
人間中心に自然破壊を行うことにより動物の住処が失われています。環境破壊への警鐘であります。「平成狸合戦ぽんぽこ」は動物目線から環境保護を訴えている、そんなメッセージも込められているのでしょう。
コメントを残す